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第96回 5章 ガスの化学、ガスの工学、ガスの化学工学と分離技術

 2018/12/07

  5−1 ガスの冷却・液化
  5−1−2 温度−エントロピー線図(T-s線図)

5−1−2 温度−エントロピー線図(T-s線図)
 熱力学線図は、化学装置のプロセスを考える時に用いられ、P-V線図(圧力−容積)、P-T線図(圧力‐温度)などを用いた状態図などが知られている。気体の冷却を考える時には、T-s線図(ティーエス線図、温度−エントロピー線図)が使いやすい。
 熱力学におけるエントロピーは不可逆性を示す重要な状態量であるが、ここでは、エントロピーの説明は省略して、T-s線図の読み方を解説する。
 酸素や窒素などの代表的な気体のT-s線図の形を示す。横軸は比エントロピー s(単位はJ/(mol・K)あるいはJ/(kg・K))、縦軸は、熱力学温度 T(単位はK)である。特に軸の値は示していないが、図の右上が室温、大気圧付近である。図の下の方にある点が、臨界点であり、この点を中心に左右に飽和液線と飽和蒸気線が示される。この上に凸になっている飽和線の内側(臨界点より下の部分)が、気液共存領域、外側の部分が気体である。T-s線図では、垂直線が等エントロピー線、水平線が等温線であるが、図中には、2つの等高線、等圧線と等エンタルピー線が曲線で示されている。
  図5-2 代表的なT-s線図
  T-s線図から、実在気体や液体の性質、プロセスについて、様々なことを読み取ることができる。
等圧下での気体の冷却、液化
 
 熱交換器により気体を等圧で冷却して液化するプロセスを図に示す。
 熱交換器の中で流体が冷却されて温度が下がる場合、図中のある点から、等圧線に沿って温度が下がっていく。厳密には圧力損失によって圧力が低下するがここては等圧過程とする。出発点と終了点の比エンタルピーを読み取り、流量を掛けると、必要な交換熱量を知ることができる。
 点1の状態の気体が熱交換器によって冷却され、等圧線に沿って温度が下がり、点2のところで飽和蒸気となり、液化が始まる。この点を「露点」と呼ぶ。露点は圧力によって異なり、圧力が低いほど低くなる。
 点2から、さらに冷却して熱を奪うと、温度は変化せず(等圧線が水平)に液化が進み、点3のところで全て液体(飽和液体)になり、この点を「沸点」と呼ぶ。
 純物質では、露点と沸点は同じ温度であり、気液二相が共存する間は、温度は変わらない。飽和液体をさらに冷却して温度が下がると、飽和温度よりも低温のサブクール液体となる。
  図5-3 ガスの冷却・液化のT-s線図
   この図は、ガスを等圧下で冷却し、温度の低下(1→2)、液化の開始(2)、液化の終了(2→3)、さらに低温のサブクール液体(3→4)、ができるまでの工程を熱力学線図の上に示したものである。
 これを逆にすると、点4のサブクール液体を加熱していくと、点3で飽和液体となり沸騰が始まり(沸点)、点2の点で全て蒸気になり(露点)、さらに温度が点1の気体(過熱蒸気とも呼ぶ)になる。

  なお、サブクール(subcool)液体がさらに冷却され凝固点以下の温度になっても固化が起こらない状態を過冷却(supercool)と呼び、そのような液体を過冷却液体と呼ぶ。「過冷」とは冷やし過ぎている(supercool)のに固化しないという意味の科学用語であり、十分に冷却されているのに液化しない蒸気も過冷却蒸気と呼ばれる。これに対して、飽和温度よりも冷たい状態を表すsubcoolにはちょうど当てはまる訳語がないため、「サブクール」とカタカナのまま示される。スーパークールとサブクールは全く別の現象を表す言葉であり、サブクールと過冷を混同しないようにしたい。
一方、蒸気を全く含まない気体はただ単にガスあるいは気体と呼ぶのが普通であるが、蒸気機関などでは「過熱蒸気」と呼ぶこともある。これに対して沸点よりも温度が高くなっても沸騰しない液体を過熱液体(superheat)と呼び、過冷却や加熱という用語の使い方には注意が必要である。
サブクール液体、過熱蒸気、飽和蒸気、飽和気体、気体、気液二相状態などは熱力学的平衡に関する用語であるのに対し、過冷却液体、過冷却蒸気、過熱液体は非平衡の状態を示しているのでT-s線図のような熱力学線図上には示されない。
  図は、酸素や窒素のような純物質のT-s線図であるが、混合物である空気にも(便宜的な)T-s線図がある。この場合は、同じ組成の液体の沸点と気体の露点は温度が異なり、気液二相領域の等圧線は水平にならない。実際には、液化が始まると液相と気相の組成は大きく変わるので、組成を(原料)空気と同じに固定した線図を作っても全く実用的ではないが、混合物では、露点と沸点の温度が異なることが読み取れるので、このような線図は教育的な意味合いがあり、実務(実際の設計)には使えない。液化が進み、あるいは蒸発が進み、液体と気体の組成が変化をしていくと飽和温度が変わっていくので、そのような現象を理解する手助けにはなると思うが、現在では設計用のツールにはならない。
実際の露点や沸点の計算は、物性推算プログラムとプロセスシミュレータを用いた気液平衡の計算によって行われる。
 
表 沸点、露点などに関する用語
用語 英語 意味 用語の使用例など
飽和液体 saturated liquid 飽和温度に達している液体 沸点の液体
沸点 boiling point 飽和蒸気圧が外圧(たとえば大気圧など)に等しい状態 沸騰温度
    飽和液体が蒸発を開始する点 加圧による沸点上昇
飽和蒸気 saturated vapour 飽和蒸気圧に達している蒸気 湿度100%
露点 dew point 飽和蒸気の凝結(液化)が始まる点 露点の蒸気
霜点 frost point 蒸気の凝結(固化)が始まる点 露点で代用されることも多い
サブクール subcool 飽和温度以下の液体 サブクーラー、 サブクール液体
過冷却液体 supercool 凝固点以下で固化していない液体(非平衡、準安定)  過冷却器、過冷却水
過冷却蒸気 supercool 露点以下で液化していない蒸気(非平衡、準安定) 
過熱蒸気 superheat 液化しない蒸気 気体、気相
過熱 overheat 加熱しすぎた状態
過冷 supercooling
undercooling
冷却しすぎた状態