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第19回 カラム(2)ガスの計量単位 Nm3
 2017/11/7
 
修正

 Nm3は、0℃、1atm(101.3kPa)の気体の体積で表示する「物質の量」であり、産業ガスの業界では、日常的に用いられる取引の計量単位である。読み方は「ノルマル・りゅうべ」または「エヌ・りゅうべ」である。
  学術用語(科学の用語)ではないが、工学的には多用されている。
   Nm3m3は、体積であるが、物理量としては物質の量であり、モルを置き換えたものである。したがって、体積で表示されていても、ガスの容積ではなく、モルと同様、物質量の意味を持つ。
 
1モルの理想気体は、0℃、1atm(101.3kPa)の状態で0.0224m3の体積を占めるので、次のように物質量(モル)を体積に換算することができる。
 
1/0.0224=44.64 mol/Nm3
   ガスの取引量などをモルで表示しても分かりにくいので、直感的に分かりやすい体積に換算したのが「ノルマル・りゅうべ」である。
  これは、ただの換算であり、実在する物質が
0℃、1atm(101.3kPa)の状態で気体で存在すのか、それが理想気体に近いかどうかは関係がないが、空気や酸素はこの標準状態で、ほぼ理想気体に近いので、この数値は実際の体積に近い。
液体の量も表示する Nm3
   Nm3の前提は理想気体であるが、0℃、1atm(101.3kPa)という状態に換算するという単なる取り決めであるため、この換算は液体であっても可能である。
    タンクローリーや貯槽などに8000 Nm3などと書かれているのは、体積8000m3の液体窒素が入っているのではなく、8000 Nm3の量の窒素(すなわち約357kmol)の液体窒素が入っていることを示している。窒素は理想気体ではないので、これをガス化した時に0℃、1atm(101.3kPa)の状態でちょうど8000m3になるという意味ではないが、常温、常圧ではおよそ8000m3になる。なお、8000m3という体積は立方体にすると20m立方である。ビルのように大きな容器を道路上を運ぶことなどできない。Nm3というのは体積ではなく物質の量を表している。
m3 は「りゅうべ」と読む
   なお、m3 を「りゅうべ」の読みは、日本語の立米(立方メートル、りゅうべい)から来ており、不動産物件で、面積 m2 を 平米(へいべい、へいべ)と読むのと同じである。口語的には「ノルマルりゅうべ」と読むのが普通で、正確に「ノルマル立方メートル」と読まれることの方が少ない。
 近年は、パソコン上のワープロで文章を書くことが普通になり、
Web上にも様々な技術情報が示されるようになり、「Nm3」を 「Nm3」と表示しているものを多くみかけるようになった。これでも(知っている人の間では)意味が通じないこともないだろうが、明らかな手抜きである。
「ノルマル」の意味
   ここで使われている「ノルマル」とは、英語でいえばノーマルであるが、ノーマル(正常)、アブノーマル(異常)という意味よりは、「規格化されたもの」「基準」「正規化」などの意味で用いられている。英語であれば、normal cubic metersであるが、ドイツ語(Normalkubicmeter)、フランス語読みの「ノルマル」が日本では普及している。
 
20世紀初頭に英国、フランス、ドイツで発明された空気の分離技術と工業ガスのビジネスは、すぐに米国や日本に伝わったが、日本に導入された技術(高圧ガス、工業ガス、産業ガス)の多くが、ドイツ、フランスの二カ国のものであったという歴史的背景がある。
気体の標準状態
   最初に、Nm3が使われるようになった時、「ノルマル」は、気体の「標準状態」を意味していた。標準状態とは、気体の温度と圧力を標準として決めたものであり、人間による決めごとである。
  多くの種類の標準状態が存在する中で、科学の世界で最もよく用いられた標準状態は、
0℃、1気圧である。この決めごとは、国際的に最もよく知られるものであり、理科の教科書などでは、「標準状態の(理想)気体1モルは、22.4リットルの体積を占める」といった説明にも使われていた。
0℃、1気圧」は、昔の標準状態であって、現在は、標準状態ではない。
   国際的な「STP:標準温度圧力」は、かつて、0℃、1atm=101.325kPa と決められていて、古い教育は、ほとんどこれひとつで教えていた。しかし、IUPAC1981年に「標準圧力」の変更を推奨し、1997年には正式に変更。「標準状態」は「温度 273.15K、圧力 100kPa」となった。
  STPとは、Standard Temperature PressureIUPACとはInternational Union of Pure and Applied Chemistry、国際純正・応用化学連合の略である。
  温度は、実質上は何も変わらなかったが、圧力の 
101.325kPa から 100kPa となり、この違いは小さくはない。
 何も注釈を付けずに単に「標準状態」 と書けば、
0℃、101.325kPaではなく 、273.15K100kPa と読むのが正しいので、Nm3の説明にはもう「標準状態」という言葉は使えない。
   たとえば、古い基準で勉強した人は、「理想気体1モルは、標準状態で22.414リットル」と記憶しているが、1997年以降は、「理想気体1モルは、標準状態で22.711リットル」と書くのが正しい。1モルの定義が変わったのではないが、標準状態の定義が変わったので、1モルの理想気体の容積は、22.4リットルから22.7リットルに変わっている。
   この定義変更から既に20年近い年数がたっているが、この定義変更に対する物性研究者、学会、教育現場などでの議論や混乱が残っている。
  そのため、日本では、1モルの気体は、標準状態で
22.7リットルとしている教科書と、未だに、標準状態で22.4リットルと書かれている教科書がある。教育現場が混乱しているため新しい教育を受けた人の中にも22.4リットルと習った人も多いようであり、古い教育を受けた人が「22.4リットル」、新しい教育を受けた人が「22.7リットル」と、単純に分かれているという訳ではなさそうである。中には教える側の不勉強で標準状態の変更に気付いていない場合もあるかも知れない。
   IUPACは国際的な権威であり、米国で物性標準を取り仕切るNIST(アメリカ国立標準技術研究所)や国際規格標準化団体であるのISO(国際標準化機構)も新しい標準状態を取り入れているため、今や1atmは「標準」とは呼べなくなっている。特にガスの物性を調査する時には、その物性値が発表された時代や組織・機構によって標準が異なることがあるので、細心の注意が必要である。
    また標準の圧力だけでなく、標準の温度も分野や業界によって様々な取り決めがあるため、いくつもの「標準状態」の組合せが存在する。業界ごとに勝手に標準状態換算を決めることが多く、注釈なしに「標準状態」の文字を使うことは非常に難しい。
   したがって、Nm3の「ノルマル」の本来の意味は、スタンダードと同じ「標準」であったが、Nm3を説明するときは、「標準状態の気体の体積に換算した量」というのでは誤解や混乱を招く。標準状態という言葉を用いずに、「0℃、101.3kPaの気体の体積に換算した物質の量」とするのが間違いがない。
   なお、小規模の流量計では、りゅうべの代わりにリットルを同様に「ノルマル換算」して、NL/minという使われ方もある。1000NL=1 Nm3、16.7 NL/min=1 Nm3/h