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18回 カラム(1)アヴォガドロ定数
 2017/11/5
 
修正

アヴォガドロ定数(Avogadro constant)NA

  アヴォガドロ定数は、昔は、アヴォガドロ数(Avogadro's number)と呼ばれた。アヴォガドロ数は、「同圧力、同温度、同体積の全ての種類の気体には同じ数の分子が含まれる」というアヴォガドロの法則に由来する無次元数である。「分子」という小さな物質の「粒」が科学的に発見されるのは20世紀に入ってからであり、分子は、それまではずっと「存在するはずの仮想の粒子」であるが、様々な方法でその「数」が求められていった。「1モル」という物質の量を表す「数」アヴォガドロ数が長く用いられたが近年になって、物理定数として再定義されることになった。
 
IUPAC総会でアヴォガドロ数はアヴォガドロ定数へと名称と定義が変更され(1969年)、1モルの原子、分子などに含まれる物質の数を表わす「物理定数」となった。具体的には無次元数であるアヴォガドロ数に対して、アヴォガドロ定数には[mol-1]という単位が割り当てられている。
 
1960年代までの古い教育を受けた人の多くが、アヴォガドロ定数ではなくアヴォガドロ数あるいはアボガドロ数として記憶している。

   国際科学会議・科学技術データ委員会が推奨するアヴォガドロ定数の値は
    NA
= 6.022140857(741023mol-1である。
   (アヴォガドロ定数の求め方は「アインシュタインが発見した分子」の項に書くことにする。)
   アヴォガドロ定数は非常に大きな値を持つ。これがどのくらいの数字であるのかを教える授業に、コップの水を海の水で薄めるという計算例(思考実験)がある。
 
180cm3のコップの水(180g)には、10モルの水分子が含まれる。地球の海の水は、14km3あるので、これを1.4×109×(103m)3の真水とすると質量は、1.4×1018トンとなり、海には、7.8×1022モルの水分子があると計算される。
 コップ一杯の水を地球上の全海水で薄めると元の水の濃度は
10÷7.8×10221.28×10-22となる。この薄まった水をもう一度コップ一杯分、すなわち10モル分集めると、このコップの中にある元の水の分子数を数えることができる。濃度に10モルを掛けて、アヴォガドロ定数を掛けると、807個になる。
   コップ一杯の水を海に撒き、これが地球全体に一様に拡散して薄めた後に、もう一度水をくみなおすと、そのコップの中には元のコップにあった水の分子が800個戻ってくるという計算になる。1モルの分子の数、6×1023という数字はとてつもなく大きな数字でありことが分かる。コップ一杯の水が全ての海水で薄められた時の濃度、10-22という濃度(分率)は、1ppt1pptの1万分の1であり、極めて希薄であるが、それでもコップ一杯の水の中の分子の数はこんなに多い。
  これは、思考実験であって、全ての海水が有限の時間のうちに、均一に混ざることはあり得ない。しかし、コップ一杯の水を全ての海水で薄めてもなお、
800個もの数の分子があるということは、われわれの周りにはそれだけ多くの分子が存在するということであり、いくら高純度のもの(ガスや液体の製品)を作っても、100%という純粋なものは得られないということでもあり、それを証明することもできないということである。
 一方、逆に海がどのくらい大きいかということを考えるために、
100万トン(106トン)の液体(超大型の石油タンカーULCCの2隻分の液体)を全ての海水で薄めることを考える。原油の流出事故による汚染は、周辺海域・陸域に甚大な被害をもたらすが、もし全ての海でこれを希釈できたとすると、この汚染物質の量は、海水全体からみた不純物の濃度は非常に希薄であり、約1pptになる。1モルに含まれる分子の数は非常に大きいが、海も非常に大きく、そこに含まれる水分子の数は膨大である。