サイト・トップ
新・漫画 ガスの話
新・漫画 ガスの話 
サイト・トップ
新・漫画 ガスの話
新・漫画ガスの話 78
http://www.pupukids.com/jp/gas-manga2/0078.jpg
作成日2020/11/09 更新日2022/04/10 コメント2023/08/08

Gガスの科学/エネルギーの話 ラグランジアンとエネルギー

解析力学・ラグランジュ力学によって錬金術、オカルトとの境界が曖昧であったニュートンの「力学」は、「科学」としてから新たに再構築されるようになりました。ニュートン主義によって欧州の科学の発展から取り残されそうになった英国ですが、ラグランジュ力学から約20年後、イングランドのヤングが「エネルギー」という新たな概念を発明し、半世紀後にはスコットランドのハミルトンが解析力学・ハミルトン力学によってニュートン力学を再定式化、欧州の「科学」に追いついてきました。

中世の欧州ではイタリアやフランスを中心に「自然哲学」「錬金術」や「化学」「医学」が発展していましたが、その基本は「観念」に基づくものであって人間中心の学問でした。それが、自然を観察し実験によって仮説を立証していくという「科学的」な学問に変わっていったのは、17世紀のロバート・ボイル、ロバート・フックからです。最古の学会とも言える「王立協会」が世界の科学をリードするかに見えた英国でしたが、同じ17世紀に現れたアイザック・ニュートンの独裁とオカルト主義によって方向を見失っていたのです。ボイルの法則は見えないガス(空気)に圧力という新たな概念を与えた科学の法則でしたが、「温度一定」という概念がとても曖昧でした。何と言っても「温度」が発明されるのは19世紀のことです。

温度や熱の研究はフランスが中心です。この分野で欧州に大きく出遅れてしまった英国ですが、ニュートン主義の後遺症から徐々に抜け出してきて、ヤングによるエネルギーの発明につながりました。その後、英国の科学者達によって、運動エネルギーやポテンシャルエネルギーの概念が発明されています。エネルギーの発明以降は、英国と欧州の科学は対立をするのではなく、お互いに競うように発展していきました。

ラグランジアンやハミルトニアンという言葉を使わなくても理科の教科書を書くことはできそうです。しかし、ラグランジアンから発展した「エネルギー」という言葉は、これを使ってはいけないとなったら、理科だけでなく社会科から何から何まで教科書が書けそうにありません。もし、エネルギーという言葉を禁止したら新聞やテレビ、様々なメディアは何も書けなくなります。文学作品もエネルギーと言う言葉を使います。
しかし、エネルギーには実体はありません。熱エネルギーや運動エネルギーという言葉は知っていてもそれが何かと言われると簡単に答えることはできません。温度や圧力、速度、重量、電流、電圧などを測定して、エネルギーの量を計算することはできますが、エネルギーを測る方法はありません。

見えないガスを見る力として必要なのものは、圧力、温度に続いてエネルギーです。

力学が「科学的」になったきっかけのひとつに「最小作用の原理」の発見があります。
科学では最上位の法則を「原理」と呼びます。原理とはそれ自体を証明したり説明したりすることができず、理由を必要としない自然の法則のことです。原理は自然の本質なので、理論的に証明することができません。もし「〇〇原理を証明せよ」という設問があったとしたら、これ自体が非論理的なので解答はありません。原理は証明できないというのが言葉の定義の一部であり、もし証明できるのであれば、上位の法則が存在するので、これは原理ではなく法則ということになります。

「最小作用の原理」を理解しようとすると、たとえば、物体があるところから別のところに運動する場合、を考えるとよいと思います。物体はどのような経路をたどることも可能ですが、いつも一直線に進むように見えます。この時、物体は何度も迷った結果、最短距離を見つけて進むのではなく、まるで最初からその経路を分かっていたかのように「作用」が最小になるように運動します。この法則には理由がないので原理と呼ばれています。
他の法則を証明する時の大前提として、この原理はしばしば用いられます。20世紀以降に発見された原理として、不確定性原理、光速度一定の原理、パウリの排他律などがありますが、原理は(理論的に)証明できないので、認める(自然の本質を科学的に解釈する)ことが大前提となります。