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(3)水の歴史 | |||||||||||
空気と同じく水は重要な資源である。 | |||||||||||
地球の歴史は46億年前に始まるが、原始の海はかなり早い時期に形成されている。 原始地球とテイアのジャイアント・インパクトによって、地球と月ができたが、誕生時の地球の表面は、マグマの熱と二酸化炭素の温室効果で非常に高温であり、原始大気の組成は二酸化炭素と窒素と水蒸気であった。 地球軌道上にあった微惑星は、その後も次々と地球に落下・衝突していったが、やがてその数も減って、衝突の回数も減ってきたため、衝突のエネルギーが減少し、地球は冷え始めた。 惑星は、他の星との衝突がない限りはエネルギーが補充されず、宇宙空間へ放熱していくため、冷えて固まっていく。しかし、地球は創世記の原始の熱がまだ中心にあり、表面にも放射性物質の崩壊熱があるため、46億年たった現在も活発に活動を続ける生きた星である。 |
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宇宙の中で生命が誕生するのに適した環境と考えられている天文学上の領域を「ハビタブルゾーン(HZ、habitable zone)」と呼ぶ。 恒星に非常に近い惑星では、水は気体となり、恒星から遠い惑星では水は固体となり、ちょうど液体の水が存在できる惑星の位置は限られる。現在の太陽系では、金星は太陽に近すぎ、火星は遠すぎる。惑星の深部の調査はまだ十分ではないため金星や火星の地下に水が存在するかどうかはっきりとはしないが、金星の表面では水は気体、火星の表面では水は固体になっているはずで、太陽系の多くの惑星あるいは衛星は水分子を持っていると考えれているが、水が液体で存在できるハビタブルゾーンの天体は地球だけである。液体の水の存在=生物(われわれが知っているような構造の生物)の存在、と考えると太陽系には地球以外に生物が存在できる環境(ハビタブルゾーン)がない。 |
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冷え始めた地球と水蒸気の液化、原始の海の誕生 | |||||||||||
地球の軌道はハビタブルゾーンにあるが、創世記の地球は非常に高温であったため、液体の水は存在することができなかった。 微惑星の衝突が減り、地球が冷却に転じると、大気中の水蒸気の液化が始まった。最初の雨は300℃の液体の水となって地上に降り注いだ。高温高圧の大気の中、最初の雨は高温である。(水の臨界温度は374℃、臨界圧力は、22MPa)。 推定では、地球全土に降った雨の降雨量は年間10,000mm、これが1000年ほど続いた。現在の地球では「止まない雨はない」と思われているが、最初の雨は、毎年10メートルの降雨量で千年間も降り続いた。もし全く蒸発がなければ、1000年間の降雨量は水深10000mにもなる大量の液体の水である。地表を覆っていたどろどろに溶けた岩石の海、マグマ・オーシャンは、雨によって冷やされ続け、固化し、その上に原始の海が誕生した。 これまでに発見された火山岩から最古の海の証拠が得られており、海の形成は約43億年前と推定されている。誕生からわずか3億年で、既に地球には水(海)が形成された。 |
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地球の表面は水で覆われた。陸地はまだないので地球の表面は全て水に覆われた水の惑星である。 大気の主成分である二酸化炭素は海水に溶解、急激に大気中の二酸化炭素濃度が減少したため、温室効果が低減して、さらに地球の温度は下がり大気の圧力も急激に低下した。 水は、様々な物質を溶かすため、地球内部の物質を溶かした海は強酸性であったが、やがて、カルシウムやナトリウムなどを溶かして中和、中性の海が形成されていった。 その後、火山活動によって陸地が形成されるようになり、地球全てを覆っていた海は縮小し、地球表面は海と陸地になった。原始の海が形成されてから現在まで、43億年間、海は一度も消失することなく存在し続けている。 ただし、約8億年〜6億年前に、海洋が全て凍結する「全球凍結」が起こり、この期間は、地球の海は液体ではなく固体の海であった。 全球凍結後に、大規模な大陸形成が起こり、大陸から供給されるナトリウムやカルシウムが海に溶け込み、現在のような塩分濃度の高い海が形成された。 |
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現在の海と水の循環 | |||||||||||
地球の陸地は大規模な大陸移動を続けている。海と陸地の関係も絶えず変化しており、やがて地中海は消滅してアフリカ大陸と欧州はひとつになり、太平洋も消失、現在はいくつかの大陸に分かれている地球の陸地も、再度ひとつの巨大大陸になると予想されている。 現在、地球の表面の71%の面積は水で覆われており、大きな循環が起こっている。この水循環の中には、いくつかの貯水空間がある。図に地球の貯水空間を示す。空間の大きさに大きな偏りがあるため、円グラフは左から順に小さな空間を拡大して示している。 一番左のグラフが示すように、塩水は、地球表面の水の量の97.8%を占める。ここでは塩水を3つに分けた資料を出典としたが、海、塩水地下水、塩湖を合計して「海」を98%とする書物も多い。 最大の塩湖、カスピ海は、元は同じ地球の海であったが、大陸移動によって内陸湖となり、海とは異なる歴史をたどったため、現在では、海と塩分濃度や生態系などが異なっている。水の星地球の貯水空間のほとんどが海である。 |
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陸上生物、特に水を大量に必要とする人間にとって、水と塩化ナトリウムは、両方が不可欠な物質である。しかし、塩化ナトリウムを大量に含む海水は、人間の生命活動に適さない水である。 海水には3.4%の塩分が含まれ、そのうち77.9%が塩化ナトリウムである。これに対して、ヒトと多くの脊椎動物の体の塩分濃度は、約0.9%であり、これは、現在の生物が現われた時(今から5億年くらい前)の海の塩分濃度に近い。現在の海水の塩分濃度は、これよりもかなり高く、陸上生物は海水中では生きていけない。 海の中の動物は、海水の非常に高い浸透圧から細胞を守る仕組みを持ち、餌から水を補給するだけでなく、海水から余分な塩分を除去して真水を入手できる高効率の腎臓を持っているため、淡水が得られない環境でも生きていける。 しかし、ヒトの体は、水も塩も両方必要としているのに、それを海水から直接摂取できるようにはできていない。ヒトの体は、必要な水分は真水(淡水)から、必要な塩分は固体の食塩(食物)からそれぞれ摂取しなければ、生きていけないようにできている。したがって、これだけ大量に存在する海水(塩水)は、人間にとっては、水資源にも塩の資源にもならない。水と塩が分離されて初めて使える資源となる。 |
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水資源 | |||||||||||
「水資源」は、淡水(freshwater、定義として塩分濃度が0.05‰以下の水)である。 しかし淡水は2.6%しかない。しかも、その大半は氷河と地下水である。図に示すように地球の水の全量は14億km3近くもあるが、海水、氷河、地下水を除く水は、わずか29万km3しか存在しない。地球は水の惑星であるが、陸上生物が利用できる水(真水)は、淡水湖、土壌、水蒸気(降雨、降雪)、川などに限られ、全体の水の量からみるとわずかである。 真水は、21世紀に不足が最も懸念される資源のひとつである。 人間が暮らしていくために必要な水資源(淡水)の多くは、陸地への降水、降雪による水のうち蒸発せずに河川に流れ込んだ「水の流量」に依存している。面積の多くを占める海の上に降る雨は使えず、陸地に降る雨も海に流れ出ると塩水になる。 陸に降る雨が海に出るまでの間の流量だけが頼りである。 水不足を表わす指標に「取水水資源比」がある。 |
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取水水資源比=年間取水量(= 水需要量)/年間河川流量(=水資源量) | |||||||||||
この値は、資源量に対する需要量の比であり、数値が大きいほど水不足となり、40%を越えると水不足が深刻になるとされている。 図は、国立環境研究所地球環境研究センターの「ココが知りたい地球温暖化」に掲載されている取水水資源比を示した世界地図である。 河川流量の少ない地域、降水量の少ない地域、人口の多い地域(需要量の多い地域)などで水不足が深刻になっているという。 近年は、アフリカとアジアの途上国において、人口の増加と経済の急成長による一人あたりの生活用水需要量急増が、深刻な水不足を招いている。 |
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地図をよく見ると日本も例外ではない。比較的降水量の多い日本でも、一人あたりの水資源量は、調査156ヵ国中91位、水資源利用率は49位である。日本には、無尽蔵なものを無駄遣いすることを「湯水のごとく使う」とする慣用表現があるが、実際には水資源に恵まれている訳ではない。 日本の場合、降雨量のうち1/3は蒸発、大陸とは異なり河川が非常に短いため、降った雨はすぐに海に流れ出てしまうため取水量は降雨量の13%にしか過ぎない。一人あたりの水資源量は世界平均の1/4、イラクと同程度である。 ただし、取水水資源比の指標は1年間の値を用いているため、一時的な洪水や季節変動を考慮することができず、本当の水不足を表わすことができていないという評価もなされるようになり、累積取水需要比という新しい指標が研究されている。 年間の河川流量が、非常に大きくても季節によっては必要な水が取水できていない地域が、東南アジア、インド、アフリカなどに多くあり、季節変動を考慮した指標を用いると、水不足が深刻な地域はさらに広がるといわれている。 |
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空気と水は、いずれもヒトの生存に必須のものである。空気は、全ての人に平等な資源である。場所によっては大気汚染があったり、高地では気圧が低かったりということがあるが、基本的には、どこでもいつでも同じ組成の空気が手に入る。 これに対して、水は地理的、社会的に非常に不均衡な資源である。 地球の陸地を流れる水(淡水)の量は、年間40000km3と見積もられ、60億人の人口で割ると、ひとり当たり利用可能な水の量は6700m3となる。しかし現実の数字は全く異なる。たとえば、アマゾン川流域の人口は全世界の0.3%であるのに降水量は全世界の15%である。これに対して、中国の人口は、全世界の21%、降水量は全世界の0.3%しかない。 降水量と人口は連動しておらず、雨の多い地域に人口が集中しているというのでもない。 古代の四大文明(メソポタミア、エジプト、インダス、中国)は、いずれも大河の近くに興ったが、現在の人口密集地体は必ずしも水が豊富なところにあるわけではない。 |
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いくつかの地域では水不足が深刻化し、複数の国にまたがって流れている河川(国際河川)も多いため、水資源をめぐる国際紛争も絶えない。世界には200以上の国際河川があり、多くの川がいくつもの国を通過し、300以上の河川に関する国際条約があり、国境線の3分の1が河川あるいは湖である。 多くの国家が、大きな河川を中心に形成されており、国際紛争の元になっている。これは、日本や英国のように陸地で国境を接していない島国の住民には理解が難しいが、川の支配をめぐる争いは古くから世界中にあり、国連の調査によると、川や地下水をめぐる紛争は世界に300以上あるという。 「20世紀は石油紛争の時代であったが、21世紀は水紛争の時代になる(セラゲルディン世界銀行副総裁)」という予測もある。 国土交通省・水資源政策の政策評価に関する検討委員会に提出された資料「水資源に関する世界の現状、日本の現状」によると、世界の水問題の現状は次のようになっている。 |
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世界で深刻化する水問題(飲料水、衛生問題)、水政策について議論することを目的とする世界水フォーラム(World Water
Forum、WWF)が1997年より3年毎に開催されている。これは、民間のシンクタンクである世界水会議(World Water
Council、WWC)によって運営されており、国連の正式会議ではないが、各国の政府関係者や政府代表が参加しているため、世界の水問題とその政策に関する議論に大きな影響を与えている。 日本の上下水道のシステムは、地方自治体主体で開発・運営が行われており、民間企業が一括して引き受けるという例はない。世界的にみると水ビジネスは、国家に後押しされた民間事業が多くなっており、特に欧州と米国では、水供給の民営化が進んでいる。 3大水メジャー、ヴェオリア・エンバイロメント(フランス)、スエズ・リヨネーズ(フランス)、テムズ・ウォーター(英国)の年間売り上げは4兆円を超えている。 |
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不思議な水の物性 | |||||||||||
ロバート・ボイルの説明のところで、ボイルが発見した水の不思議な性質について触れた。水を他の物質と比べると、その性質には特異なものが非常に多く、全てが科学的に説明されている訳ではない。 | |||||||||||
これまでに知られている水の特徴をまとめると次のようになる。 | |||||||||||
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