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第92回 4章 ガスの科学と物質の階層構造

 2018/12/02

  4−6 時間の階層

 

  4−6−3 太陽系46億年の歴史

 

 
宇宙の歴史は138億年であるが、太陽と太陽系の惑星は46億年前に生まれた若い星である。宇宙の初期にできたファーストスターは、超新星爆発などによって宇宙に多くの元素をばら撒き、それが元になって次の星が生まれ、星の誕生と消滅が繰り返されている。100億年以上前から続く、スター誕生と消滅の中で、われわれの太陽は新しい星のひとつである。太陽は、その質量から寿命はおよそ100億年と推定されており、46億年たった現在は、星として安定な時期にある。
(1)元素の合成
  20世紀になって多くの新元素が発見され、同位体が発見されて、地質の年代測定が精密に行われるようになった。現代物理学や科学技術の発達によって様々な観測手法や理論がうみだされ、地球や太陽系のことが非常に詳しく理解されるようになった。炭素や酸素などの元素の起源、生物の進化、空気の起源、などが明らかにされてきた。 アインシュタインが示したエネルギーと質量の等価の式E=mc2 から、質量が失われるとそれは莫大なエネルギーに転換されることが分かったが、これは、物質を作るためには、莫大な量のエネルギーが必要であるということも示している。
  宇宙は、莫大な空間とエネルギーからできており、エネルギーと質量は等価であり本来は区別されるものではないが、莫大な宇宙のエネルギーの一部が、物質に変換されて宇宙に漂って存在している。宇宙の圧倒的大部分は、空間(真空)であり、宇宙の組成は、4%が既知のバリオン(陽子や中性子などの「物質」)で残り96%は未知のもの(ダークエネルギーとダークマター)とされている。われわれに「見えているもの」は宇宙のごく一部ということになる。
エネルギーから、素粒子が生まれ、素粒子から原子核や原子が作られ、それが原料となって星や銀河が生まれたが、宇宙にある原子の大半は、水素とヘリウムである。しかし地球や太陽系の他の岩石惑星(水星、金星、火星)は、水素やヘリウム以外の重元素、酸素、窒素、ケイ素、鉄などからできている。(宇宙の平均値を考えた時、酸素や窒素でも「重い」元素となる)
宇宙の大半は、空間とエネルギーであり、その一部が物質として存在し、しかも、その物質の大半は水素とヘリウムであるにも関わらず、地球上には、酸素や炭素や鉄など、ほとんど存在しない希少な元素が満ち溢れている。われわれが日常生活で実感する「自然」は地球であるが、その地球は、実際の自然、すなわち平均的な宇宙からは大きくかけ離れた特別な存在のひとつである。宇宙からみると地球は極めて不自然な元素からできている。われわれの周りにありふれている物質は、星が進化する過程で合成された特別な元素からなっているのである。
太陽の表面は燃えていない。中心で起こっている核融合反応の熱と光が数万年かかって表面に到達して輝いている。
  軽い原子核同士が反応してより重い原子核ができる反応が「核融合反応」である。星雲から原始星が誕生し、星の内部で安定した核融合が進行し、自力で発光するようになると主系列星と呼ばれる恒星になる。
太陽のような恒星の内部では、核融合反応が起こりエネルギーを放出する。太陽で起こっている水素核融合反応(水素→重水素→3He→4He)には、300万Kの温度と高圧力が必要であるため、それよりも低温の太陽表面(6000K)では核融合反応は起こっていない。大昔の人たちは太陽が燃えていると考えたが、太陽の表面は核融合反応が起こるような高温ではなく、中心部の核融合反応の結果生じた、莫大なエネルギーが表面に現われて、明るく輝いて見えており、太陽は燃えていない(燃えている場所は見えない)。太陽の中には、非常に多くの物質が詰まっているため、核融合反応による光が表面に達するのに数万年の時間が必要であり、今、地球上のわれわれが見ている太陽の輝きは、数万年前に中心部で起こった核融合反応の結果生まれた光が表面に達し、約8分間の距離を経て到達したものである。
星の核融合反応で合成される元素は鉄まで
  このような核融合反応の前後では、質量欠損が生じており、失われた質量がエネルギーに転換され、恒星は莫大な熱と光を発生する。核融合によって質量がエネルギーに転換される発熱反応は、軽い原子から順に続き、鉄原子まで続くが、鉄よりも重い元素では、核融合反応は吸熱反応となる(核分裂反応の方が発熱反応となる)ため、それ以上の反応は自然には起こらない。
 核融合によてエネルギーを放出する反応は(条件がそろえば)自発的に起こりうるが、エネルギーを必要とする反応は、その不足するエネルギーを補給しない限り起こらない。したがって、新たな元素の合成工場である恒星が進化しても、その上限は、鉄(56Fe)までである。実際に星の中で、どの元素まで合成できるかは、その恒星の質量と年齢、その他の環境によって決まるため、全ての恒星において鉄元素まで合成できる訳ではないが、理論的な上限は鉄である。
太陽の質量の0.46〜8倍の質量を持つ恒星では、水素からヘリウムが合成され、続いて、炭素などの元素が合成され、星の寿命が尽きる頃には、より重い元素が合成されていく。
われわれの太陽はほとんどの元素を合成していない
重い星ほど寿命が短く、軽い星ほど寿命が長く、太陽の質量では、寿命はおよそ100億年である。現在の太陽は、誕生後(核融合が始まってから)46億年たっており、主に水素からヘリウムが作られる核融合反応が進行中であるため、現在の太陽ではまだ、これ以上重い元素は作られていない。しかし、太陽光のスペクトルを分析すると太陽大気には様々な元素が存在している。これらの元素は太陽で合成されたものではなく、起源は別のものである。
太陽の質量の8倍以上の質量を持つ大きな恒星では、酸素、ネオンからマグネシウムまでの元素の合成が進み、質量が太陽の質量の10倍以上の恒星であればケイ素や鉄の合成までが可能となる。
夜空に観測される星のほとんどは、質量が小さく安定した核融合を長く続けることができる主系列の恒星である。一方、主系列に含まれない非常に大きな質量を持つ巨大な恒星は、一気に核融合が進行するため、寿命は極端に短く、数百万年程度で超新星爆発を起こす。太陽が100億年ほどの寿命を持つことと比較すると余りにも短い寿命であるため、超新星爆発が夜空で観測される確率は非常に低い。しかし、この超新星爆発によって放出される莫大なエネルギーによって。恒星内の元素合成(核融合反応)では作ることができない重い元素が合成されている。
巨大で短寿命の恒星の超新星爆発が重い元素を作る
  フレッド・ホイル(1915〜2001年、英国)によって「超新星元素合成」の機構が提唱された(1954年)。爆発の大きなエネルギーによって、軽い原子は中性子を捕獲(r過程)して重くなり、その原子が崩壊することによって、より原子番号が大きな元素が合成されるという中性子捕獲過程などの元素合成が研究されている。
 核融合では鉄までが限界であるが、超新星爆発によって、様々な重い元素が合成され、宇宙空間にばら撒かれる。この星の残骸が原料となって次世代の星が作られる。
   夜空に突然明るい星が現れる現象、「新星(nova)」が、古代より知られており、19世紀になって、さらに明るい「超新星(supernova)」現象が発見された。超新星爆発の発生頻度は、銀河系内では100年に1回程度といわれており、観測される機会は非常に少ない。紀元185年から1604年までに7つの超新星が発見されているが、それ以降は銀河系内では超新星は観測されていない。
 系外銀河(銀河系以外の銀河)の超新星爆発は、遠すぎて肉眼ではみづらいが、1885年にはじめての系外超新星がアンドロメダ銀河で発見され、2回目は1987年の大マゼラン星雲で発見された超新星爆発(SN 1987A)である。(大マゼラン星雲は星雲ではなく、局部銀河群のひとつでわれわれの銀河系の伴銀河)
 その数百年に一度の超新星爆発の時に発せられた宇宙ニュートリノが、日本(小柴昌俊ら、観測施設はカミオカンデ)、ロシア、米国で計測された。肉眼で見えるものとしてはケプラーの超新星(SN 1604)から380年ぶりであり、近代の天文学が初めて観測した超新星爆発である。これ以降、肉眼で見られる超新星は現われていない。
 恒星内合成と超新星爆発によって作られた元素が、宇宙空間にばらまかれ、次の星の原料となる。非常に若い星である太陽の大気には様々な元素が観測されている。同じ太陽系の地球には、水素から超ウラン元素まで100種類以上の元素が存在しているが、これらは誕生と消滅を繰り返してきた星々が宇宙にばら撒いてきたものである。
(2)分子雲(Molecular cloud)と星の誕生
  星が作られる過程を説明する時、その原料は、宇宙にただよう「ガス」や「ちり」と表現される。この場合の「ガス」は分子や原子、「ちり」は固体のようなものがイメージされる。
しかし、よく知られる大気圧の空気を、0℃、1atmの理想気体とすると、体積1cm3あたりの分子の数は、2.69×1019個であるのに対して、宇宙空間では、物質が多い場所であっても、その密度は、1km3あたり水素原子1個程度である。宇宙空間のガスとは、われわれが知っているようなガス分子の集まりとは程遠い。
宇宙にただよう「ガス」は、圧力や分子間力とは無縁のばらばらに存在する原子や分子であり、われわれが知っている気体でも液体でもない。固体、液体、気体と呼ばないのは宇宙空間に漂う物質の場合、そもそも気体と液体という区別そのものがなく、原子、分子が固く集まっている固体(チリ)あるいは、原子がばらばらに存在するガスしかない。
  宇宙にただようガスが集まって密度が高くなる場所があり、これを「分子雲」と呼ぶ。
分子雲の中でも特に密度が高い塊を「分子雲コア」と呼び、その代表的な大きさは、直径が100万光年(銀河系の10倍)、質量は太陽の10万倍、温度は25K、物質の密度は105〜106個/cm3ほどである。 分子雲コアは、平均的な宇宙に比べると非常に高温であり、密度は10万〜100万倍も高いが、地球の気温に比べると非常に低温で、地球の空気と比べると密度は14桁も希薄である。
非常に希薄な物質が集まっている分子雲コアであるが、この方角を地球から観測すると後方の星の光を遮るため、黒い雲のようにみえるため、この部分を「暗黒星雲、dark nebula」と呼ぶ。しかし、暗黒星雲は実際は星雲(星の雲)ではなく、希薄な分子の集まりであり、まだ星はない。
密度の高い分子雲コアができると、次第に周囲のガスやちりを集めるようになる。物質の分布は、完全に対称ではないため、やがていずれかの方向に回転するようになる。回転によってつぶれ円盤状になった分子雲コアの中心には原始星が誕生し、周囲のガスを集めてさらに大きくなっていく。原始星は、重力(位置エネルギー)によって光る(光を放出する)。
原始星は誕生から数千万年の間に、重力による収縮で中心部の温度と圧力が上がり、やがて核融合が起こる条件が整う。核融合が安定して進行する星は、明るい恒星となり、主系列星と呼ばれる「星」が誕生する。地球から観測されるほとんどの星がいずれかのタイプの主系列星として進化するが、星が惑星系を作り、そこに生命が誕生するには、数十億年の時間が必要であり、太陽ほどのちょうどよい質量の恒星系(寿命は約100億年)が必要である。
(3)惑星の誕生
  われわれの太陽は、ひとつの分子雲の中のガスが集まって作られたが、同じ分子雲から生まれた兄弟星は100個ほどあったと推定されている。しかしその所在は分かっておらず、欧州宇宙機関ESAのガイア探査機が、太陽の兄弟星を含む銀河系の詳細な地図を作るための調査を行っている。
  太陽系ができる時、ガスが集まって太陽やガス惑星(木星、土星)が形成され、チリが集まって金星や地球のような岩石惑星ができた。太陽系の惑星がどのようにしてできたのか、まだ謎が多いが、隕石や地球の地質の調査、同位体の分析、高度なコンピュータ・シミュレーションの発達などによって、惑星科学が急速に進歩している。最新の科学に基づいて太陽と太陽系46億年の歴史を紹介する書籍も多い。
  分子雲の質量は太陽の10万倍ほどあり、太陽系の原料となった分子雲の「ガス」や「ちり」は、ひとつの恒星の残骸ではなく、非常に多くの恒星の残骸が集まってできていると考えられている。したがって、もしチリ(固体)がそのまま集まって太陽系が作られたのであれば、太陽系内の元素の同位体存在比は、場所によって異なっているはずである。しかし地球の鉱物、太陽系起源の隕石、月の石などに含まれるマグネシウムなどの元素を調べると、その同位体比はほぼ一定の比率になっており、太陽系内の同位体比は、どこでもあまり変らない。このことから、原始太陽系のチリは、一度、蒸発して混じり合い均質となり、その後、成長したものと考えられている。
微惑星の合体による原始惑星の誕生、惑星は互いにぶつかりながら成長してきた
  チリの大きさは、100nmほどと推定されるが、小さなチリの間には引力が働かず、チリどうしの「接着力」も非常に弱いため、どのようにして成長するのかよく分かっておらず、その機構を解明するための研究、実験やシミュレーションが行われている。チリが何らかの仕組みで集まって、その大きさが10kmほどになると「微惑星」と呼ばれ、同じ軌道上(太陽からの距離がほぼ等しい軌道)に数多くの微惑星ができる。
いくつもの微惑星が合体し、その中の大きい微惑星が小さい微惑星を少しずつ取り込んでいくことが繰り返され、やがて、半径3000kmほどの「原始惑星」が完成する。天体は、このくらいの大きさになると自らの質量による重力によって、形はほぼ球形になり、太陽の周りを正円軌道で周回するようになる。原始惑星の中には、太陽に落下して消滅する惑星や太陽系から飛び出してしまうものもあるが、火星軌道の内側には、数10個の原始惑星ができあがったと考えられている。
原始惑星ができるとき、原始太陽系全体を包んでいた円盤状のガス雲は太陽に落下したり、太陽からの紫外線で散逸したりしてやがて消失する。原始惑星を円軌道にとどめていたこのガス雲の力がなくなると、原始惑星同士の引力の影響が強くなり、原始惑星の軌道は楕円軌道に移行し、惑星の軌道の交差や衝突が始まる。
  コンピュータ・シミュレーションによる研究によると、同じ軌道上で、何度も大きな衝突が起こり、同じ軌道上には、それぞれひとつずつの惑星が残った。火星軌道の内側には、水星(半径2400km)、金星(半径6000km)、地球(半径6400km)、火星(半径3400km)の4つの惑星が形成された。
惑星は、外側の軌道ほど周回距離が長いため、集まるチリやガスが多くなり、大きくなりやすい。水星、金星、地球の順に大きくなっている。しかし、火星は地球の外側の軌道にあるのに質量は地球の10分の1しかない。火星が小さいことの謎は、まだ解明されていないが、火星だけは、大きな衝突がなかったため原始惑星のまま残ったという説や木星の大きな重力による影響説などがある。
原始の地球
  太陽、地球、太陽系の惑星は大昔から詳しく研究されてきた。
地球の成り立ちについては、地質の調査、隕石の研究、月の石の研究、惑星探査などを通じて様々な研究が行われ、地球物理学や地球化学が発達してきた。
地球は46億年前に微惑星が衝突・合体を繰り返して作られた。微惑星には放射性物質が含まれ、その崩壊熱と衝突のエネルギーで高温となった地球は溶け、重い元素が中心部に沈み込み金属の地球の核ができた。重いものが沈む時のポテンシャルエネルギーが熱に転換され、これを地球の原始の熱と呼ぶ。地球は熱を内部に溜めこんだのである。
一方、地殻中に大量に存在するウランとトリウムとカリウム(40K)は放射性物質であり、現在も崩壊熱を出し続けている。地球には、原始の熱と原子の崩壊熱があり、太陽からの輻射熱と宇宙空間への放射とがバランスしている。
これまでの研究から、地球が宇宙に放出している熱は、44.2×1012W、地殻中のウランとトリウムの崩壊熱は7×1012W、カリウムの崩壊熱は4×1012Wとなっていたが、マントル中の崩壊熱が見積もられていなかった。近年になって、東北大学ニュートリノ科学研究センターが、旧カミオカンデを改造した「カムランド」を使って放射性物質の崩壊に伴って放出される「反ニュートリノ」を8年近く観測、その結果を発表した。マントル中の崩壊熱は10×1012Wと見積もられ、地球内部の放射性物質の崩壊熱は合計21×1012Wとなり、宇宙に放出している熱の半分をまかなっていることが分かった。
  したがって、「原始の熱」が半分あり、それによって中心核は、マントルよりも高温を維持することができている。
地球の内部は地殻、マントル、核などの多層構造となっているが、中心核の上の外核のみが液体であり、その対流によって地磁気が生まれ、地球は危険な太陽風から守られている。(地球が作り出す地磁気の変化は一般の生活にも重要であるため、気象庁・地磁気観測所では地磁気の観測結果や磁気嵐速報などを公開している)
惑星や衛星は、星が形成された後は、他の星との衝突がない限り、宇宙空間に放熱し続け冷える一方である。火星には大きな火山活動などがみられないが、地球は冷えて固まることのない、今も生きた惑星である。その科学的理由の解明が、カムランドの観測によって行われ、地球の原始の熱と原子の崩壊熱が見積もられた。
原始の熱は、地球創世記に多くの微惑星が落下した時の運動エネルギーや重くなって沈んだ鉄の位置エネルギーなどが中心核に蓄えられたものであり、原子の熱はウランとカリウムの放射性同位体の崩壊熱である。原子の熱のうち、ウランの崩壊は、地殻中にヘリウムを生成し、カリウムの崩壊はアルゴンを生成しており、このふたつの元素は重要な産業ガスになっている。
太陽系以外の惑星
  1995年に「系外惑星」(太陽系以外の恒星系の惑星)が発見された。自分で光らない惑星は観測が容易ではなく、太陽系以外の星の惑星の観測は極めて困難であった。しかし、2008年頃より画像処理技術などが進歩し、小さな系外惑星でも発見ができるようになり、2015年までに1900個もの系外惑星が発見・確定されている。
NASAのホームページでは系外惑星の情報が頻繁に更新されている。系外惑星の研究によって、太陽系の惑星から得られてきたこれまでの常識が覆されそうだという。異常に軽く巨大な惑星、炭素とダイヤモンドでできている惑星、公転周期が異常に長い惑星、公転軌道が逆回転の惑星など従来の理論では説明ができない惑星が次々に見つかっている。