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第87回 4章 ガスの科学と物質の階層構造

 2018/11/27

  4−5 小さな階層・ミクロスコピック

 

  4−5−2 小さな階層を電子で観測する

 

小さな階層を観測する道具
 異なる階層を観察するのには、特別な道具が必要である。ヒトの肉眼の分解能では、細菌や微生物は観察できないので、研究のための拡大装置、光学顕微鏡(optical microscope)がある。顕微鏡は、科学革命・ルネサンス(14世紀)の頃にはまだなかったが、16世紀末に製作され、ガリレオ・ガリレイやニュートンの「17世紀科学革命」の時代には、生物学の研究に用いられるようになっていた。
 遠くのものを観察する望遠鏡(telescope)と小さなものを観察する顕微鏡(microscope)は、ほぼ同じ頃(16世紀末)から使われるようになった。
   階層が100〜10-6mの間は、可視光(肉眼、虫眼鏡、光学顕微鏡)で観測ができる。光学顕微鏡には、生物顕微鏡、金属顕微鏡、蛍光顕微鏡(対象物の燐光・蛍光を観察する)、レーザー走査顕微鏡(光源にレーザーを使用)などが用途に応じて用いられている。
 可視光線の波長(360nm〜830 nm)から、光学顕微鏡の分解能(optical resolution)は、100nm(10-7m)程度となるため、カビ(200 μm)、酵母(10 μm)、細菌(1μm)までは、観察可能である。しかし、ウィルス(20〜100nm)は、可視光線の波長よりも短く、小さすぎて光学顕微鏡では観察することができない。
電子顕微鏡 TEM、SEM
   20世紀になって、さらに小さいものを見るために、可視光線ではなく電子線をあてて観察する電子顕微鏡(electron microscope)が発明された。電子顕微鏡の理論的な分解能は、0.1nm(10-10m)であり、よく知られるものに「透過型電子顕微鏡」 (TEM、Transmission Electron Microscope、1931年)、「走査型電子顕微鏡」 (SEM、Scanning Electron Microscope、1937年)がある。
 正式名称が比較的長いため、省略形、TEM(テム)やSEM(セム)が用いられ、綴りが短い割には広く通じる用語である。TEMとSEMは、もとは工学分野で利用されたが、20世紀中頃からは広く生物学にも利用されるようになった。
   19世紀末に、細菌濾過器を通過しても感染性を失わない病気(植物のタバコモザイク病)が見つかり、顕微鏡では観察できないほど小さなもののが存在すると思われた。20世紀になって、ウェンデル・スタンリー(1904〜1971年、米国)が、病原体をTEMで観察するためにウィルスの結晶化に成功(1935年)、電子顕微鏡によってウィルス粒子の大きさや形態の観察が可能となった。光学顕微鏡では観察できなかった未知の病原体が電子顕微鏡によって特定され、ウィルス学が急速に進歩することになった。スタンリーはノーベル化学賞を受賞した(1946年)。
 TEMは、観察対象に電子線をあて、それを透過してきた電子を拡大する。対象の構造や成分の違いで電子線の透過が異なり、これが顕微鏡像となる。TEMの電子加速電圧を非常に高くした「超高圧電子顕微鏡」では、立体物の観察も可能となるが、非常に巨大な装置になるため日本国内には20台程しかない。
電子顕微鏡 SPM
   SEMは対象物全体に電子線を当てるのではなく、細い電子線をスキャニングして対象物からの二次電子線などを観察するので表面付近の観察に適している。
   その後、探針(プローブ)を用いて物質の表面を観察する「走査型プローブ顕微鏡」(Scanning Probe Microscope、SPM)が開発された。IBMのハインリッヒ・ローラー(1933〜2013年、スイス)とゲルト・ビーニッヒ(1947年〜、ドイツ)によって最初のSPMである「走査型トンネル顕微鏡」(STM、Scanning Tunneling Microscope)が発明された(1981年)。(1986年にノーベル物理学賞を受賞)。
   続いて、「原子間力顕微鏡」(AFM、Atomic Force Microscope)、SQUID(超伝導量子干渉計、スクウィ−ド)を利用した「走査型SQUID顕微鏡」など10種類ほどのSPMが開発された。
 電子顕微鏡では、試料を乾燥させる必要があり、真空中で用いることもあるため、生物の観察に不向きな場合が多く、生きた細胞の観察はできなかった。そこで、X線の光源に放射光を利用、光学素子技術を用いたX線顕微鏡が開発された。軟X線は水の吸収が少なく、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の軟X線顕微鏡では、水を含んだ状態の試料の1×10-7m以下の構造を観察できるという。硬X線顕微鏡では、非常に強度の強い光源が必要となるため、高輝度光科学研究センター(JASRI)のスプリングエイト(SPring-8、大型放射光施設、兵庫県佐用町)施設や KEKの放射光科学研究施設(Photon Factory、フォトンファクトリー、つくば市)などのシンクロトロン放射光が利用される。
 このような放射光施設は非常に大がかりな装置となるため数が少ない。国内にはスプリングエイト、フォトンファクトリーの他には、自然科学研究機構・分子科学研究所(岡崎市)、兵庫県立大学(NewSUBARU)、広島大学(HiSOR)、佐賀県立九州シンクロトロン光研究センター (SAGA-LS)などがある。
 

表-主な顕微鏡の種類

光学顕微鏡

Optical microscope

OM

光学顕微鏡

金属顕微鏡、生物顕微鏡、実体顕微鏡、倒立顕微鏡位相差顕微鏡、微分干渉顕微鏡、偏光顕微鏡など

 

共焦点レーザー顕微鏡

Confocal laser scanning microscopy

CLSM

 

全反射照明蛍光顕微鏡

Total Internal Reflection Fluorescence

TIRF

 

レーザーラマン顕微鏡

Lasers Raman Microscope

 

 

蛍光顕微鏡

Fluorescence microscope, Epifluorescent microscope,

MFM

電子顕微鏡

Electron microscope

 

 

透過型電子顕微鏡

Transmission Electron Microscope;

TEM

 

走査型透過電子顕微鏡

Scanning Transmission Electron Microscope、

STEM

 

走査型電子顕微鏡

Scanning Electron Microscope、

SEM

走査型プローブ顕微鏡

Scanning Probe Microscope

SPM

 

走査型磁気力顕微鏡

Magnetic Force Microscopy

MFM

 

走査型SQUID顕微鏡(超伝導量子干渉計)

(superconducting quantum interference device, SQUID)

SQUID