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第84回 4章 ガスの科学と物質の階層構造

 2018/10/25

  4−4 大きな階層・マクロコピック

 

  4−4−4 地球、月、108m〜

 

身近な宇宙の階層
 天文単位auより2桁、階層が小さくなると太陽の直径1.39×109m(139万km)となり、さらにひと桁小さくなると地球から月までの距離3.8×108m(38万km)となり、もうひと桁階層が小さくなると、107m、地球の直径1.28×107m、(1万2,800km)となる。
最も近い天体、月
 
 図に106m〜108mの階層を示す。
   図は、地球と月の距離を水平ではなく、赤道上空にある月を地上から見上げたように描いている。地球、月および大気圏の大きさは、ほぼ同じ縮尺である。
 地球の直径は、約12,800km(107m)、月の直径は約3,500km(106m)、現在の地球と月の間の平均の距離は38万km(3.8×108m)である。
 月、地球、地球と月の距離が106m〜108mの階層であり、1枚の図に何とか収まるが、太陽の直径139万kmは、この図には入らないほど大きい。
 月は、地球の赤道の真上にあり、遠地点(40.5万km)と近地点(36.3万km)は10%も異なるため、地球から見える月の大きさは最大15%ほども異なる(近地点そのものは、35.64〜37.0万kmの間で変化する)。月の最接近が、満月・新月の位置に重なる時は、大きな月「スーパームーン」が観測される。
 月は潮汐力で、地球に常に同じ面を向けているが、近点にある時は、月の自転速度は公転速度よりも遅いため、地球からは、月の東側の裏側がわずかに見える。
 月までの平均距離38万kmという数字は比較的よく知られており、光の速度で1.3秒ほどの距離であるが、創世記の月は、すぐ近く2.4万kmにあり、静止衛星の軌道3.6万kmよりも低く高速度で公転していた。
 月はらせん状に徐々に遠ざかっている。月が地球から離れる速度は、現在、年間3.8cm(1.2×10-9m9m/s、毎秒1.2nm)と測定されており、これは衛星の後退速度としては異常に大きいが、人類の文明の歴史の中では、この38万kmという数字が書き換えられることはなさそうである。
   月は、肉眼でも大きく見えるほど地球に近い天体であるが、人類の科学技術で到達するには非常に遠いところにある。1968年に米国の有人宇宙船アポロ8号が初めて月に到達した時、地球から月までの月遷移軌道を経て月周回軌道に移行するまでに要した時間は、打ち上げから69時間余りもかかっている。
  アポロ宇宙船は、月までの遷移中は、2.1km/sという速度で飛行していたが、それでも3日間もかかっている。107m〜108m の階層、38万km というのは、そのくらいの距離であり、秒速2.1kmという速度は、地上では非常に速いが、宇宙空間を移動するにはあまりも遅いのである。
   アポロ計画では、8号の5か月後にアポロ10号が月に再度到達、その4か月後には、11号が初めて月面に着陸し(1969年)、その後、17号(1972年)まで様々な調査・研究が行われた。月は、すぐ近くにあるように思えるが、非常に遠く、プロジェクトにかかった時間も費用も莫大である。技術開発のために多くの試験飛行や失敗もあり、17号までのうち、月面に着陸したのは6回である。
   なお、月の公転と自転周期の関係から月はいつも同じ面を地球に見せており、地上からは月の裏側は見えないということが昔より「神秘的」なことと思われているが、これは、たまたま偶然そのような時代に人類が現れたため、そのように思われるということである。創世記の月や未来の月は公転と自転の周期がずれるため、地球に同じ面だけを見せるということはない。厳密には、月の軌道は円軌道ではないこと、月の自転軸が公転軸と少しだけずれていること、月の自転周期は変動していること、また、地球上の観測地点によては月の見え方が異なることなどの理由から、現在でも月の裏側は少しだけ見えており、月の裏側が全く見えないということではない。
宇宙開発とガス技術
   アポロ計画では、地球や月に関する重要な知見が得られたが、このミッションで得られた科学的・工学的資産も非常に大きい。集積回路やコンピュータ、燃料電池、システム工学など、現在では当たり前のように使われている技術の多くが、アポロ計画という巨大プロジェクトを通じて開拓・推進された。様々な知見の中にはガスの利用技術もある。
  アポロ1号の事故によって高濃度酸素雰囲気の危険性が明らかとなった。それまでの有人宇宙船の呼吸用空気は、ほぼ100%濃度の酸素雰囲気であったが、そのためにアポロ1号は火災事故によって失われた(1号という名称は後からつけられた)。その後、多くの改良が行われ、様々な理由によって地上と同じ21%酸素の大気圧の空気を採用することはできなかったが、40%酸素濃度の空気が使用されることになり、船内の設備や宇宙服などの材質の見直しも行われた。今でこそ、高濃度酸素雰囲気の危険性(支燃性)は常識として捉えられているが、アポロの事故まではそれほど深刻には考えられていなかったようである。
  現在の国際宇宙ステーションでは、長期滞在も必要となるため、地上と同じ気圧、21%酸素と窒素からなる空気が使用されるようになった(ただしアルゴンは含まれない)。
   アポロの打ち上げ時に使用される専用のサターンV型ロケットの2段目と3段目の推進用には、大量の液体酸素と液体水素が使用された。1段目のロケットはケロシン燃料であり、まだ空気のあるところで使用されるが、短時間に大量の燃料を燃焼させるために酸化剤として大量の液体酸素が使用された。
  また、アポロ宇宙船(機械船)には、液体水素と液体酸素のタンクが備えられ、酸素は呼吸用に、水素と酸素は燃料電池(FC)に用いられ、宇宙船に電力と水を供給した。低温液化ガスのハンドリングは簡単な技術ではなく、打ち上げ時の大きな加速度や地球と月の間のほぼ無重力に近い低重力領域といった特殊な環境において、うまく作動させるのは容易ではなかったと思われるが、液体酸素と液体水素のタンクを持った宇宙船が月まで到達した。この時、酸素がはじめて液化されてから、まだわずか50年しかたっていなかった。
   月までの有人飛行は非常にリスクの高いミッションである。地球を少しでも離れると、それまで守られていた大気や地球磁場による防御がなくなり、宇宙船と乗員は、太陽からの大量の荷電粒子や放射線に直接晒される。また、小さな微粒子であっても大きな相対速度で衝突すると機体には簡単に穴が開き、大きな危険が伴う。アポロ計画から50年ほどたち、様々な科学技術は格段に進歩したが、宇宙空間を人間が飛行することの危険性は少しも変わっていない。ゲイ・リュサックたちは、高空の空気を調べるために、危険を犯して気球による大冒険を行ったが、20世紀に、人類はさらに38万kmもの上空への冒険を行った。しかし、21世紀になった今もなお、宇宙旅行は、勇敢な人だけが成し遂げられる冒険の世界である。(低高度を飛行する国際宇宙ステーションは地球の陰に隠れることができるが、それでも太陽から大量の粒子が来ることが予想される時は、シェルターに退避するようになっている。アポロのような小さな宇宙船が月に向かう時は、乗員を宇宙線・放射線から守る手段はない。)
   なお、アポロ計画に先んじてソ連のルナ計画が進められており、1958年から1976年の間に、無人の月面探査機ルナが打ち上げられた。総数43機が打ち上げられ、打ち上げに成功した24機にルナ1号から24号までの番号がつけられた。そのうち6機が月面に軟着陸、3機のサンプルカプセルが地球に帰還している。
  月から持ち帰られたサンプルからは、非常に多くの貴重な知見が得られている。