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第83回 4章 ガスの科学と物質の階層構造

 2018/10/24

  4−4 大きな階層・マクロコピック

 

  4−4−3 太陽系、1012m〜1013m

 

銀河の10億分の1の太陽系
 銀河から9桁、階層が小さくなると太陽系の大きさになる。銀河系が直径1mの円盤であったなら、太陽系は1ナノメートルの小さな円盤である。
銀河と太陽系の間の9桁の階層にあるものは、やはり空間である。宇宙は何もない空間であるが、銀河の中であっても、恒星のないところは、やはり同じように何もない空間が広がっている。宇宙の大きさから15桁も小さくなって、やっと太陽系の階層が現れる。宇宙が直径1mであれば、銀河系は1μm、太陽系はたったひとつの原子核よりも小さい。
天文単位 au
   太陽系内の最も外側の8番目の惑星、海王星と太陽との距離は約45億km(4.5×1012m)地球と太陽の距離は、1億5千万km(1.5×1011m)である。
 このあたりからは、光年や羃乗表示でなくキロメートル表示も可能になってくるが、太陽系やその近くの宇宙の大きさを測る尺度として「天文単位(au: astronomical unit、エイユー)」がよく用いられる。これは、地球が太陽の周りをまわる楕円軌道から得られる距離から定義されている。海王星の軌道は30au、太陽系の外縁のカイパーベルトまでが50au、ここまでを太陽系と呼ぶとすれば、太陽系の大きさは、地球軌道の約50倍ということである。
   50auのさらにその外側には、ヤン・オールトが1950年に提唱した太陽系を球殻状に取り巻く「オールトの雲」と呼ばれる天体群があり、そこまでを太陽系だと考えると、その大きさは、1万〜10万au(1.58光年)となり、海王星やカイパーベルトまでを太陽系と考えた場合とはその形や大きさがまるで異なっている。
   オールトの雲には、約1兆個の天体があり、彗星の発生源だと考えられているが、具体的な天体が確認されていないため、現在はまだ仮説とされている。どこまでが太陽系かという境界は、とても曖昧である。われわれが通常イメージする太陽系は、同じ方向に運動している惑星群であるが、本当の太陽系は円盤状のものではなく、もっと巨大な球形をしているようである。
   現在、天文単位は、地球の軌道の長半径を基準として1au=1.4959…×1011m(有効数字11桁)と定義されているが、実際の値は常に変化している。常に変動する量は、基本単位としてはふさわしくないが、auは重要な単位であるとして、この定義値はSIと併用することが認められることになった(2014年)。SIでは、このように変化する実験値を単位として採用することは非常に珍しい。auは、ISOやJISでも使用されており、基本的な長さの尺度となっている。 なお、オングストローム単位系も長さの単位としてauを用いるが、こちらは非SI単位であり、表記も1Å=0.1nm=10-10mとされることの方が多いため、天文単位のauと混同されることはない。
   1auは、光の速度で約8分(8光分)の距離であるから、地球上で見えている太陽は、太陽光球の約8分前の光である。太陽の光の元は、太陽中心で起こった核融合反応に伴うものであるが、太陽内部の物質の密度が大きく、光速度が遅い(光子が進むのを妨げる)ため、表面に届くまでに3万年ほどかかる。したがって、今、地球上で観測されている太陽光は、太陽の中心で3万年前に起こった核融合反応の光が表面に到達して1auの距離を8分間かけてたどり着いたものである。
   ヒトが目で見て、耳で聞く情報は、全て過去のものが時間をかけて届いているものであるが、すぐ目の前の事象では、そのかかった時間を意識することが全くない。
 しかし、少し距離が離れるとそれを感じることがある。上空を通過する飛行機を見上げると、音のする方向と見える方向がかなりずれており、光の進む速さと音の進む速さの違いが現われる。雷光と雷鳴も距離が離れていると、かなりずれて届く。速さの代名詞のようにいわれる音速も光と比べるとあまりにも遅い。しかし、光の速度も有限であり宇宙ではかなり遅いため、地球から1auの距離にある太陽は8分前の姿である。
 近くにあるが謎の多い太陽系、人が近づくには大きすぎて、時間がかかる。
   観測可能な宇宙(1027m)や銀河(1021m)の詳細な研究が進んでいるが、銀河よりも桁違いに小さい太陽系(1012m)であるが、未だに謎が多い。隣の銀河やその先の宇宙のことが調べられているのに近場の太陽系がよく分からないとは不思議であるが、恒星以外の天体は、自らは光らないため、情報(光や電磁波)が少なく、太陽系内の天体は地球からの距離が近いにも関わらず観測が難しい。太陽自体も他の恒星に比べるとあまりも近いため、光が強すぎて観測は容易ではない。
   しかし、現在の科学では(太陽)系外の天体に接近する方法はないが、太陽系内の天体は、それなりの技術と時間と金をかければ、探査機が接近できる距離にあるため、より詳細に調べることが可能である。ただし、接近が可能と考えると逆に、他の惑星や太陽までの距離は、人間にとって非常に遠く、太陽系は非常に大きい。探査機が他の天体に近づくには何年もの時間がかかっている。
 現在も、探査機による太陽系内探査ミッションが行われており、近距離からの大気の分析、地震波による内部の観測、鉱物やガスなどの分析、地球への持込み(サンプルリターン)などが試みられている。太陽系の他の惑星や小惑星、月や他の衛星などを調査することは、地球をより詳しく理解するために重要なこと、あるいは生命の起源を知るために必要なことと考えられており、各国の探査機による太陽系内天体の直接観測プロジェクトが続けられている。
   太陽系内の惑星や衛星の探査だけでなく、日常的な太陽の観測も続けられている。
 日本では、情報通信研究機構(NICT)の宇宙天気情報センターが、太陽活動(黒点、太陽風、太陽フレア、地球の地磁気の状態など)を「宇宙天気予報」として発信している。これは、太陽の活動が、地球上の日常生活にも影響を与えるためであり、黒点情報、周期情報、ケア情報(無線通信、衛星運用、電力・磁気探査、GPS、航空機関係)などのサービスが行われている。
 具体的に起こった太陽活動の影響としては、太陽フレアによるデリンジャー現象(短波通信障害)、電波バーストによるGPS受信機の障害、磁気嵐による人工衛星の運用停止、送電線の異常電流、極域航空路の低緯度への変更推奨などがある。
 太陽活動は、地球の気候、温暖化や寒冷化にも非常に大きな影響を与えており、詳細な観測が続けられている
 

表-太陽系内の主な探査機

打上年

探査機

業績

1959

ルナ1号

ソ連

月近傍を通過

1959

ルナ3号

ソ連

月の裏側を撮影

 

パイオニア4号

米国

月近傍を通過

1962

マリナー2号

米国

金星フライバイ

1964

マリナー4号

米国

火星フライバイ

1965

パイオニア6号

米国

惑星間空間の観測

1966

パイオニア7号

米国

惑星間空間の観測、ハレー彗星に接近

 

ルナ9号

ソ連

月面軟着陸

 

ベネラ3号

ソ連

金星衝突

1967

マリナー5号

米国

金星探査

 

パイオニア8号

米国

惑星間空間の観測

 

ベネラ4号

ソ連

金星大気

1968

パイオニア9号

米国

惑星間空間の観測

 

アポロ8号

米国

月周回

1969

アポロ10号

米国

月周回、着陸船が高度15.6kmまで接近

 

アポロ11号

米国

月面軟着陸

 

アポロ12号

米国

月面軟着陸

1970

ベネラ7号

ソ連

金星着陸

1971

マリナー8、9号

米国

火星探査

 

マルス2号

米国

火星衝突

 

アポロ14号

米国

月面軟着陸

 

アポロ15号

米国

月面軟着陸

1972

パイオニア10号

米国

木星探査

 

アポロ16号

米国

月面軟着陸

 

アポロ17号

米国

月面軟着陸

1973

パイオニア11号

米国

土星探査

 

マリナー10号

米国

金星、水星探査

1975

バイキング1、2号

米国

火星軟着陸、一般相対性理論の検証

1976

ルナ24号

ソ連

月面からの標本

1977

ボイジャー1号

米国

木星、土星と衛星

 

ボイジャー2号

米国

天王星、海王星

1978
ISEE-3/ICE

ESA

ハレー艦隊(ハレーアルマダ)、
2014年にクラウドファンディングで再稼働

1983

ベネラ15号

ソ連

金星探査

1984
ベガ1号、ベガ2号

ソ連

ハレー艦隊(ハレーアルマダ)

1985
さきがけ

日本

ハレー艦隊(ハレーアルマダ)

1985
ジオット

ESA

ハレー艦隊(ハレーアルマダ)

1985
すいせい

日本

ハレー艦隊(ハレーアルマダ)

1989

ガリレオ

米国

木星探査

1990
ユリシーズ
ESA、米国
太陽極軌道探査機

1997

カッシーニ

ESA、米国

土星探査、カッシーニ・ホイヘンス・ミッション

2003

マーズ・エクスプレス

ESA

火星探査

 

はやぶさ

日本

小惑星イトカワ標本

 

スマート1

ESA

月探査

2006

ニュー・ホライズンズ

米国

冥王星と太陽系外縁天体探査

2007

かぐや

日本

月探査

 

嫦娥1号

中国

月探査

2008

チャンドラヤーン1号

インド

月探査

2010

あかつき

日本

金星探査

2011

ジュノー

米国

木星探査

2014

はやぶさ2

日本

目標は小惑星リュウグウ

2018

水星探査計画 「ベピ・コロンボ」

ESA、日本

水星磁気圏探査機(みお、MMO: Mercury Magnetospheric Orbiter)、
水星表面探査機 (MPO: Mercury Planetary Orbiter)

2020
EJSM
ESA、米国
木星探査、欧州名「ラプラス」