|
|
|
|
|||||||||||
アインシュタインの新たな重力理論 | |||||||||||
|
|||||||||||
|
|||||||||||
アインシュタインから100年、多くのな学者・研究者が一般相対性理論の問題の解法に挑んできた。その歴史が記された、 「パーフェクト・セオリー 一般相対性理論に挑む天才たちの100年」 (ペドロ・G・フェレイラ著、 高橋 則明訳、2014年、NHK出版)が分かりやすくとても面白い。 | |||||||||||
アーサー・エディントン | |||||||||||
1905年の特殊相対性理論と1915年の一般相対性理論が発表された時、これを評価できたのは一部の学者だけであった。一般の人々がこれらの理論の存在を広く知ったのは、アーサー・エディントン(1882〜1944年、イングランド)が、皆既日食時に観測した重力によって光が曲がる現象(1919年)である。 エディントンは、太陽が光を放つ理由が、水素-ヘリウムの核融合反応であることを初めて提唱した物理学者・天文学者であり、相対性理論を英語圏に普及させることに尽力したことで知られる。当時は、中央同盟国(ドイツ、オーストリア、オスマン帝国など)と連合国(フランス、英国、ロシア、イタリア)の間に起こった第一次世界大戦が、1918年11月に終結、ドイツと英国は敵国どうしであったが、エディントンは戦争中はドイツ国内では広まることがなかった相対性理論を英国に紹介し、その実証研究を進めていた。大きな戦争はあったが、「科学は全人類の財産」であるという考えが強い時代であり、ドイツのアインシュタイン(国籍はスイス)の理論の実証を英国の科学界は強く支援していた。 1919年5月に、エディントンらは、南半球に観測隊を率いて遠征、日食の観測を行った(南アフリカとブラジル)。太陽の重力によって背後の恒星からくる光が特殊相対性理論と一般相対性理論によって「曲がる」ことを計算、日食時にこれを観測してアインシュタインの相対性理論の正しさを実証したのである。当時の世界の新聞は、時空の歪みの観測と新たな重力理論の時代をセンセーショナルに報じた。 ニュートンは、自分の提唱した万有引力の法則では、天文学におけるいくつかの観測結果と合わないことを知り、その観測データを示したフラムスティードを学界から抹消しようと画策した。ニュートンは、自らの理論が不完全であることを隠し、正しいデータを改ざんしようとしたが、その陰謀は裁判では敗訴、結局ニュートンの死後に、正しい天空図が出版されるという結果になった。200年後、アインシュタインが打ち立てた正しい重力理論をエディントンが実証、不完全なニュートン力学は完全に過去のものとなった。 |
|||||||||||
なお、相対性理論の普及に貢献したエディントンではあるが、学界の権威者となった後では、スブラマニアン・チャンドラセカールが提唱した「ブラックホール理論」を頭から否定したため、この分野の研究が30年以上も遅れた原因を作ったとされている。 | |||||||||||
アインシュタイン方程式の宿題 | |||||||||||
一般相対性理論が発表されてからは、アインシュタイン方程式(重力場の方程式)の解法が物理学の大きなテーマとなり、フリードマン宇宙やルメートル宇宙などの解が示され、ビッグバン宇宙論につながった。 しかしアインシュタインの発表からちょうど100年がたった2015年でも、課題が残っており、重力波(時空のゆらぎが光速で伝播する現象)の直接観測は達成されておらず、2016年になって米国のLeigo装置(ライゴ)が宇宙重力波の検出に初めて成功したという報告がなされた。今もなお、30ほどの研究機関で、宇宙重力波検出の挑戦が続けられている。 |
|||||||||||
特殊相対性理論と一般相対性理論の利用例:GPS | |||||||||||
アインシュタインの理論(特殊相対性理論と一般相対性理論)は、特殊な分野にしか関係がないように思われるかも知れない。 たとえば、取り扱う系の速度が光速度に比べて十分に小さい時は、ガリレイ変換とローレンツ変換の結果は、ほとんど等しいので、ガリレイ変換を使っても何の問題もない。通常のガスの取扱いや機器の設計には、特殊相対性理論は必要ない。また、地球上の運動であれば、地球の重力加速度の平均値を用い、必要に応じて、月や太陽の潮汐力やコリオリ力を考慮すればよいので、一般相対性理論までを必要としていない。しかしアインシュタインの相対性理論は、様々な科学の基本になっており、たとえば、電磁波の取り扱い等には、特殊相対論的場の量子論が必要である。化学反応の多くは非相対論的量子論で十分に説明ができるが、電子工学や物性物理学など身近な科学技術分野に相対論的量子論が必要になっている。 一方、地球上での様々な科学分野では一般相対論の出番はほとんどない。厳密に言えば、地球の中心からの距離が異なると重力が異なるため、たとえば、海面近くと山の上では時間の進み方が異なり、重力が大きいほど時間の進みが遅くなる。しかし、地球表面上の重力による時空のゆがみの違いは、無視できるほど小さく、地球上で全ての時間を統一してもなんの問題もない。地球上では、場所による便宜的な時刻の違いはあるが、時間の進み方は全ての場所で等しいと考えることができる。 しかし、20世紀後半から利用され始めた人工衛星や宇宙船は、地球(の重力の影響)から離れるようになった。人工衛星は気象観測、通信、放送など様々な分野で一般の生活にも密接に関わり、生活必需品のひとつになっているが、地球からは離れているため、地球の重力の影響が小さく、時間の進みが速くなっていることを無視することができないようになった。(人工衛星で時間が速くなっているというよりは、地球上では地球の重力によって遅くなっている) |
|||||||||||
特殊相対性理論と一般相対性理論のふたつの理論が、身近な日常の生活の中で用いられている例がGPSの時間である。GPS(Global Positioning System、全地球測位システム)では、二つの相対性理論に基づく時間の計算が行われている。 | |||||||||||
GPSは、米国が軍事用に打ち上げた人工衛星(NAVSTAR、ナブスター衛星)を利用して地上の受信者が自身の位置を測定する衛星測位システムである。ナブスター衛星は、通称GPS衛星とも呼ばれている。 | |||||||||||
GPS衛星(米軍)が発信する情報には、軍用のものと民間用のものがあり、様々な機械にGPS受信機が内蔵され、科学技術分野をはじめ、民生用にも盛んに利用されている。一般生活に欠かせない存在となっている。衛星測位システムは、広範に利用され、社会インフラとしても重要になってきているため、米国(GPS)以外にもEU(ガリレオ、民間の全地球航法衛星システム)、中国(北斗衛星導航系統)、ロシア(GLOANASS、旧ソ連)、日本(QZSS、準天頂衛星システム)など多くの衛星測位システムが運用あるいは計画されている。 米国のシステム「GPS」は、衛星を用いた測位システムのうちのひとつであるが、最も古くから稼動し世界中で利用されているため、GPSという言葉が、一般名詞のように普及し、日本の地域航法衛星システム「みちびき」などは「日本版GPS」とも呼ばれている。 |
|||||||||||
GPS衛星は、静止衛星ではなく、それよりも低い高度、20,200km(2×107m)を1日に2周周回する人工衛星(群)であり、ここから発信される信号をスマートフォンなどの受信器が受信して自分の位置を計算し、測位が行われている。 | |||||||||||
この時、重要なのは、これらの慣性系で光速度が一定であるということと、発信時刻の正確性である。 ひとつは、衛星の速度が速い(地球上の受信器との相対速度が大きい)ため、特殊相対性理論による「同時性の不一致」が無視できない、ということ。もうひとつは、衛星が地球から離れているため、衛星と地上の重力の違いによる一般相対性理論による時間の遅れ・進みの影響があるということである。衛星と地球上では「時間が異なる」ため、二つの理論を用いた計算と補正が必要となる。 |
|||||||||||
受信者は、信号の発信時刻と受信時刻と光の速度から衛星までの距離を測定し、複数の信号をもとに自位置を計算する。電波は光速度で進み、幾何学的な計算では、3つの衛星の信号があれば連立方程式の解として座標(3次元の位置情報)が得られるが、受信機側の時計の精度は信頼できないため、これを使わず、通常は4つめの信号を加えて演算が行われる。 | |||||||||||
したがって、位置の計測のためには同時に4つのGPS衛星が上空に見えなければならないが、現在は、地球上のどこからでも6つの衛星が視界に入るようになっており、米軍が管理する衛星コンステレーション(星座の意)は、4機が1群となり、それぞれが6つの軌道面を周回、合計で24機である。高精度化や故障時の予備機を考慮し、1978年打ち上げの1機目から、2015年までに31機体制が構築されている。 衛星からの信号は、双方向ではなく一方通行であり、全ての計算は受信機側で行われるが、測位に必要な正確な時計は、GPS衛星に搭載されている原子時計が基準となっている。ここで使用される「時刻」は、地球の標準時とは異なる「天体歴」であり、二つの相対性理論に基づく厳密な補正が行われる。 |
|||||||||||
人工衛星は、地球に対して比較的高速で運動しているため特殊相対性理論に基づいて、地球よりも時間の進み方が遅くなっている。(軌道速度は4km/sほど、光速度の0.0013%) 一方、周回軌道が、地球から離れているため地球の重力による影響が小さくなるため、一般相対性理論に基づいて時間が速く進んでいる。衛星の方が時間の進みが速いというよりは、地球表面では、地球の重力によって時間の進みが遅くなっている。 |
|||||||||||
人工衛星時間の特殊相対性理論による遅れと一般相対性理論による進みを合わせると、GPS人工衛星では、1日に約38.6μ秒も地球より時間が速く進む。これは時計がずれるということではなく、時間そのものが1日に100万分の39秒くらいずつずれているということであり、基準になる時刻をどちらかに決めなければならないということになる。時刻のずれということではほとんど無視できる違いではあるが、この間に電波や光が進む距離を考えると、これは、無視できないほど大きな値である。この時間に光や電波は11kmも進むので、補正をしなければ、大きなずれを生じることになる。もし1年間何も補正しなければ0.014秒もずれ、この間に光が進む距離は4000kmとなる。 カーナビゲーションやスマートフォンなどに内蔵されているGPS受信器には、「時刻合わせ」の機能がついていない。これは、人工衛星の時計から送られる情報に基づいた時間(時刻)であって地球時間ではないからである。当然のことながら、何千年かこのシステムを使い続ければ、地球の暦と宇宙の暦がそれなりにずれてしまうはずであるが、そんな先のことまで考える必要もないため、暦のずれの補正は予定されていない。 |
|||||||||||
相対性理論に基づいた時間の補正によってGPSは実用的な精度が得られており、軍用の高精度信号では誤差1cm程度の精度と言われている。民生用の荒い精度の信号では、受信機の単独測位で、誤差10m程度、これに位置が既知の地上基地局と連携することによって、誤差数m程度とされている。(カーナビゲーションでは、地図データ、速度計、加速度計などGPS以外の様々な情報を総合しているので、自車位置測定の精度はさらに高い) | |||||||||||
現在のGPS民間利用は、船舶用位置情報システム、地殻変動観測、生物生態調査、カーナビゲーションシステム、携帯電話・スマートフォン位置情報、距離測定器、防犯、ゲーム、スポーツ(登山)などに様々なところに広がっている。位置情報だけでなくその時計の正確性も利用されており、地震計の時刻情報システム、ネットワークの高精度時刻サーバー構築、GPS時計内蔵の計測器などがある。 | |||||||||||
ただし、航空機の場合は、航空機自体が高速移動しているためドップラー効果や時間のずれがあること、衛星の電波を見失った場合の安全性の確保などから、航空機が搭載する自前の慣性航法装置や地上航法支援施設利用等の従来からの航法システムが中心となっている。GPSや静止衛星を用いた補強システムは今後の課題となっている。 | |||||||||||
100年前に、特殊相対性理論によって、世界には絶対時間や絶対空間は存在しないという事実が明らかになり、離れた場所では、同時性の不一致があり、観測者によって時間が異なることが明らかにされ、その理論は電磁場など身近なところでも利用されるようになった。一般相対性理論では、エネルギーや重力によって時空がゆがむことが明らかとなり、宇宙の謎の解明や、GPSのような日常生活に密着した機械にも用いられるようになった。 相対性理論は、空想科学の世界の話しではない。 |
|||||||||||